葛根湯は効かない!? 新型コロナウイルスに有効な漢方のアプローチとは

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新型コロナウイルス(COVID-19)感染症の治療というと、ワクチンや飲み薬といった西洋医学の話題が中心になりがちです。

治療の手段が増えるのはよいことだけれど、新しい西洋薬には少し不安を感じる……。そんな方もいらっしゃるのではないでしょうか。
馴染みのある漢方薬を使い、新型コロナの予防や症状の改善に役立てられたらいいですよね。

ここでは、漢方医学の理論を応用して新型コロナの「飲み薬」を研究している、東京・渋谷にある『金王坂クリニック』の西大條文一院長に、新型コロナに対する漢方のアプローチについてお話しを伺います。

新型コロナウイルスに対する漢方のアプローチ

ワクチンや飲み薬などの治療薬を用いた西洋医療と、漢方のアプローチの共通点と違いについて尋ねると、

「西洋医療と漢方に類似する点はありません。考え方、アプローチが全く違うものです」

と西大條院長。

西洋医療では病気の原因を明らかにして治療法を決定します。病名が違えば、治療法も変わってきます。

一方、漢方には「証(しょう)」という考え方があります。証は、症状の現れ方やその人の体質のこと。
西洋医療の観点ではそれぞれ異なる病名を持つ疾患であっても、証が同じならば同様の治療が有効であると考えます。

漢方における「標治から本治」

新型コロナは新たに発生した感染症ではありますが、漢方の考え方に従うなら、これまでに無かったような、全く新しい治療法が必要になるというわけではありません。
同じような症状が現れた疾患は過去にもあり、その度に、漢方医学は有効な処方を見つけて治療をしてきました。

「そもそも人間の体に顕れる症状のパターンは限られているんですよ。
例えば、病にかかった時に顔が赤くなったり黄色になる人はいても、緑色になる人はいませんよね。
つまり、漢方医学においては患者の外見の様子を詳細に観察することによっておのずと対処法は決まってくるんです。

特に漢方では『標治(ヒョウチ)から本治(ホンチ)』といって、人体の外部に表われる症状を正常な状態に戻しながら、同時に体内に潜む病の根源を取り除くのが特徴です。
症状の治療が標治で、根源への対処が本治。いわば火災報知器を止めながら火元を消すのが漢方なんです。
私は今回のCOVID-19にも、漢方を主に対処しています」(西大條院長)

葛根湯が効かない可能性がある? 

風邪などで熱が出たときに用いられる漢方薬に葛根湯(カッコントウ)があります。
日本でもポピュラーな漢方薬で、葛根湯で熱が下がった経験がある人は多いことでしょう。

新型コロナは発熱を伴います。それなら熱を下げるのに葛根湯が有効といえるのでしょうか?

西大條院長は、安易に葛根湯を使用する傾向はむしろ危険であると指摘します。

扱いに注意が必要な「麻黄」と「柴胡」

葛根湯には麻黄(マオウ)が含まれています。
麻黄には、体を活性化させることで発汗を促して熱を下げる働きがあります。
発汗は体力を消耗するので、特に感染初期に使用すると免疫力が低下し、かえって悪化してしまう心配があります。
感染してからしばらく経ってからであれば葛根湯が有効なこともあるそうです。

もうひとつ、柴胡(サイコ)にも注意が必要です。
柴胡は補中益気湯(ホチュウエッキトウ)などに含まれており、体力を回復させる働きがあります。
しかし、柴胡を用いると免疫を上げ過ぎてかえって症状が強く出る心配があるといいます。
その最たる例は、免疫系の調整がうまくいかず、サイトカインの異常上昇が起こるサイトカインストームでしょう。
西大條院長は感染初期に限らず、新型コロナの治療に柴胡は用いないそうです。

このように、一見すると効果がありそうに思える漢方薬でも、使い方を誤ると症状を悪化させてしまう可能性があるので注意が必要です。

「傷寒病」と「温病」の違いとは

葛根湯が新型コロナに効かない可能性について見ましたが、なぜこのようなことが起きるのでしょうか。

傷寒病(ショウカンピョウ)と温病(ウンピョウ)の違いを知れば、その理由について理解することができます。

一般的には、悪寒のある発熱を傷寒病、悪寒のない発熱を温病、というように考えられています。西大條院長はさらに詳しく解説してくれました。

漢方薬が処方されるようになったのは、疫病が広まったのがきっかけ。約2000年前に今でいうインフルエンザが流行ったときには、麻黄と柴胡を使うことによって熱が下がることが分かりました。
葛根湯はこの頃、ちょうど漢の時代にインフルエンザに対処するために生み出された漢方薬です。

こうした発見を含め、色々な病気について時期や、患者の体型、年齢、性別などを分類して傷寒論という本がまとめられます。
そこには、寒くてガタガタ震えたり、体温が上がったり下がったりするのは、「寒」が体を傷つけるためだとする考え方が記されています。

ところが500年くらい前に、傷寒論で使われる薬を使っても高熱が下がらない疫病が生じました。
いくら葛根湯を飲んでも1日は熱が下がるけれど再び上がってくる。熱が下がったと思ったらまた上がるの繰り返し。ちょうど新型コロナと似たような症状です。
温病学は、この気持ちの悪い発熱に対処するために生まれました。

発熱に用いる温病学の漢方薬

西大條院長の考え方を大まかに理解すると、インフルエンザには傷寒論で対処できるが、新型コロナには温病学が求められる、ということになるでしょう。

なお、約500年前の葛根湯が効かない疫病(SARS、MERSなど)は日本では流行しなかったこともあり、日本漢方では傷寒論で十分とする考え方が根強く、温病学を理解して診療に取り入れるのは少数派なのだそうです。

西大條院長自身は「傷寒論でも温病学でも、効けばどちらでも良い」という立場。
新型コロナの発熱に対しては、温病学的に参蘇飲(ジンソイン)を処方して成果を上げているとのこと。
参蘇飲は葛根湯と同じく「葛根」を含みますが、麻黄や柴胡を含まないので、感染初期に体力・免疫力を低下させたり、反対に免疫力を高め過ぎて暴走したりといった心配がなく、新型コロナの治療に向いているのだといいます。

漢方とウイルス

漢方は新型コロナに効果があるのか、ないのか、という議論があります。
この問題に対して私たちは、傷寒論をベースにした考え方だけでなく、温病の考え方を取り入れるとき、漢方が大きな力を発揮することを理解しました。

しかし、次のような疑問を抱く人もいるかもしれません。

傷寒論にしろ温病にしろ、それらが生まれた時代に中医学はウイルスの存在を知らなかったのではないか。それなのに、漢方がウイルスに対処できると考えるのはなぜか?

これについてはまず、たとえウイルスの存在を知らなかったとしても、中医学は伝染病によって引き起こされるさまざまな症状を網羅しており、経験的に有効な処方を発見していた、と答えることができるでしょう。
さらには、中医学の古典の中には、現在のウイルス感染の機序にも通じる考え方が記されているといいます。

「私の個人的な考えです」とした上で、西大條院長は次のように話します。

温病学の膜原(マクゲン)という概念に注目してみましょう。

解剖学的位置については諸説あるのですが、私は膜原とは粘膜と細胞の瀬戸際のことではないかと考えています。
ご存知のように新型コロナは、ウイルスのスパイクタンパク質が粘膜に付着し、粘膜から人体に入り込んで増殖することで感染します。
このことを洞察していた中医学者がいたのでしょう。膜原、つまり粘膜に付着している段階で止められれば感染は防げると。

まさにこのような働きをするのが達原飲(タツゲンイン)です。「達原」には「原因に達する」という意味があります。

スパイクタンパク質が細胞に入ってくるときに止めるイメージを持つと分かりやすいでしょう。
興味深いことに、達原飲は初期に飲むもので、ある時期を過ぎたら効かないとされています。これはちょうど、粘膜から細胞に入ってしまってからでは感染を止められないのと似ています。

西大條院長はこのように温病学の漢方薬を処方し、実際にコロナに有効であるという確かな感触が得られたといいます。

「過去の文献や事例を調べれば、そのとき対処したお医者さんたちの実践の中にヒントや答えが見つかるはずです。温故知新的な考えでCOVID-19に対処していきたい」と、さらなる研究への意気込みを語りました。

記事監修

西大條先生プロフィール画像

金王坂クリニック 西大條文一院長

東北大学在学中より回春堂の故李慶鎬先生、温故堂の故橋本敬三先生に師事。古代から現代までの東西の医学史、医療史の研究をベースに、最新の微生物学・免疫学と 漢方医学の知識を融合させた治療と臨床研究を行っている。
東西の医学史・医療史の研究をベースに、西洋医学と漢方医学の知識を融合させた治療を実践。
また、イタリア語、フランス語、英語、中国語(中文)での診療も可能。

全国対応の保険適用のオンラインクリニックも行っており、オンラインで自宅で診療、処方箋がご自宅に届きます。
西大條文一院長が、西洋薬に加え、症状に適した漢方薬を処方します。
https://www.konnozakaclinic.com/service/online/
※症状によっては保険が適用にならない場合もございます。

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